青蓮亭日記

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2009年 03月 09日

銀彩格子文丸盆

この盆は、初めて見たときから気にしていながら、
「売りにくそうだなぁ……」と数回見送り、
改めて手に取って「やっぱりこの意匠はすごい」と思い直し、買った。

モンドリアンの絵画における樹木の表現の具象から抽象への変遷が頭に浮かんだ。

荒涼とした大地か、あるいは凍てついた湖水か、
一面の鈍い銀彩の上に細く引かれた白銀の格子。
そのところどころに刺さった短い裂が、冬木立のように見える。

(直径:約32cm・高さ:約2.3cm/売約済)

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自然の事象を抽象化する日本人の優れたデザイン感覚は、
古伊万里の蕎麦猪口などによく表れているが、
古い漆器にこんな先鋭的なデザインを見ると「参りました!」という気にさせられる
(私が知らないだけで、伝統工芸の殻を破ろうとする作り手たちによるこうした品は
実は沢山あるのかもしれないが……)。

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この画像と文章を何度も見返しているうちに、
高校生のとき、冬の帰り道、
遠くに見える神社の大木の梢がすっと灰色の空に消えていく様を見るのが好きで、
「こんな風景を絵に描いたり詩に詠んだりできたらいいのに」と思ったことを思い出した。

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結局そういった思いを実現する機会はなかったけれど、
やがてカスパー・ダヴィッド・フリードリヒ(Caspar David Friedrich/1774-1840)の
厳しい冬のドイツの自然を描いた絵画に出会い、
今また日本の古いものの中に「あの感覚」を呼び起こす景色を見つけた。

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裏のつややかな黒塗りを見て、以前この盆をお譲りいただいた業者さんに
おそるおそる「戦前……くらいですか?」と尋ねると、明治から大正期とのこと。

漆本来の豊かな艶、骨董の漆器の枯淡の趣、絢爛豪華な蒔絵の美といったものとは異なる、
漆工芸の可能性の一端を見た。

by penelope33 | 2009-03-09 20:19 | クラフト・デザイン | Comments(0)
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