2011年 08月 30日
先日、『an・an』のインテリア特集 のことを書いたが、 '90年代の自分は、そういった “オシャレなインテリア” のイメージを脳裏に刻みこみつつ、 それとは対極的な “東京のリアルな住まい” の写真集に惹きつけられていた。 それが、'93年に出版された『TOKYO STYLE』である。 本書は、美術・建築関係のライター・エディターであった都築響一さんが、 自ら大型カメラを購入し、 家賃10万円以下の100件近い賃貸物件を活写したもの(一部、持ち家や分譲マンションもあり)。 いわゆる “オシャレな” 部屋はほとんど載っていないし、 「自分の友達がこんなとこに住んでいたら引くなぁ……」という部屋も多いのだが、 この写真集の頁を繰っていると、なぜだかとても気持ちが落ち着く。 でもそれは、“他人の生活を覗き見る楽しみ” というのとはちょっと違っていて、 自分の中では、コンビナートの写真集やダムの建設記録映画を見るのと あまり変わらない行為のような気がしている。 この本に掲載されている写真のほとんどは、 狭い空間にさまざまな「モノ=記号=情報」がひしめく部屋。 部屋の住人が写っていなくても、部屋のつくりとそこにあるモノが、 その人となり、趣味嗜好、家族構成を雄弁に物語る。 都築さんは、どんなに猥雑な部屋であっても、 どんな趣味嗜好に対してもニュートラルな視線を注ぎ、 膨大な写真ひとつひとつに、ウィットに富んだキャプションを添えている。 大型カメラのとらえた100近くの部屋の写真は、 『Beauty in Chaos(混沌の中の美)』『The Fancy in Fetish(カワイイものが大好き)』 『Artsy Pads(アートっぽい痕跡)』 『The Traditional Touch(古い和室のディテール)』 『Monomaniacs(好きでたまらないモノたち)』『Kiddie kingdoms(子どものいるウチ)』 『Inertial Living(ただ住めればいい)』『Hermitages(現代の隠遁生活)』 (註:カッコ内は私自身の試訳) ……と、独特な観点から8つに分類されている。 私が好きな写真は、 『Artsy Pads』『The Traditional Touch』『Hermitages』の章にあるものが多い。 いくつか掲載してみる。 『考現学』を提唱した民俗学者・今 和次郎(こん わじろう/1888〜1973)が'90年代に生きていたら、 こんなフィールドワークをしていたかもしれない。 (この記事は未完です)
by penelope33
| 2011-08-30 21:18
| 観る・聴く・読む
|
Comments(9)
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sa55z at 2011-08-31 06:13
これ、いい写真集でしたね。Tokyo Nododyにならんで面白いというか
妙にシュール。業界の人としての強みが在ったとはいえ、凄い潜入だったと。 その見る目は、プロの目ですね、これは。
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penelope33 at 2011-08-31 10:59
着眼点もおもしろいですし、自分で撮っちゃったのもすごいし、
また写真自体がいいんですよね。 そしてプロのライター・エディターならではの 鋭くユニークな章立てとキャプション。 併記された英文もベンキョウになりました(笑)。 『Tokyo Nobody』もおもしろかったですね。 相方が買ってウチにあります。
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リルコ
at 2011-08-31 20:59
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おじゃまいたします。
私もこの本のことを前にブログに書いた覚えがあるのですが、いささか情緒過多な自分の文 (いっつもです!) とは違い、さすが 「学究肌」 と感性がうまくブレンドされているPeneさんだなあ、と思いました。 「学究肌」 というのは骨董屋の必要条件だと思います。 (私なんて 「TOKYO スタイル」だし。 ケータイの英字変換ってめんどうなので、ま、いっか、と。 性格でてますね。) この本は今でも自戒の書です。 極端な 「モノの美至上主義」 となって何かからかけ離れてしまうことへの。 都築さんの、「坐して半畳、寝て一畳」 の文もいいですよね。 ずっと抱え込んでるので、Peneさんの 「未完」 の意味がよくわかるような気がいたしました。 (お門違いだったらごめんなさいね。)
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penelope33 at 2011-09-01 13:44
そうそう、リルコさんもこの本のこと、書いていらっしゃいましたよね。
私が最初にこの写真集を読んだときに思ったことは、 こちらの頁 http://seirentei.exblog.jp/6690918/ にも書きましたように、ひとことで言えば 「住まい・インテリアなんて、住む人間が心地よければそれでいい」ということでした。 '80年代に埼玉から東京に出てきて古いアパートに住み始めた頃は、 「自分はこういうところが落ち着くんだけど、この古さはちょっと恥ずかしい」 という気持ちがあったんですよね。 それが、この写真集を読んでから、 「自分はやっぱり古いハコ(アパートや家)のほうがいい」という確信に変わりました。
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penelope33 at 2011-09-01 18:43
古民家を移築したり改築したりする個人や店舗が増え、
建築物や建築家への関心、エコロジー意識の高まりなどを受け、 1997年に『チルチンびと』という雑誌も創刊されていますが、 2000年代の古道具・古家ブームは、 2003年に『Ku:nel』『天然生活』が創刊された影響が大きいと思います。 「新品の小引き出し」に代表されるように、 アンティーク風の商品が増えてきた昨今は、 もうこのブームも下火になってきている感が強いですが。 実は、松岡正剛さんがこの写真集について「やられた」と書いていらっしゃいまして、 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1152.html 私は不遜にも松岡さんに「やられた」と思ったんですよ(笑)。 でも、『an・an』について触れたら、 絶対この本についても自分なりに書いておきたいと思ったんですよね。 まあ、まだ十分消化できてないんですけど……。 リルコさんの『自戒の書』という言葉、とてもよくわかります。 この本には「こだわって選ぶ」のとは真逆の “清々しさ” がありますよね。 「坐して半畳、寝て一畳」のあとがきもホントにいいですよね。 でも、やっぱり私は六畳はほしい。煩悩多きニンゲンです(笑)。
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なかた
at 2011-09-01 23:18
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これたしか、もともとはSPA!の連載でしたよね。
わたしも好きでした。 上海留学時代、みんなほぼ同じつくりの部屋に同じ家具だったのに、それぞれがまったく違う暮らし方だったのにおもしろいなぁと思いました。これ、写真で記録したら考現学としておもしろいだろうなぁとも思いながら、結局なにもしなかった…。今になって後悔しています。
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penelope33 at 2011-09-02 17:11
『SPA!』では '93年から『珍日本紀行』などを連載していたそうですけど、
これも『SPA!』の連載だったんですか?知らなかった。 お国柄や学生のタイプで同じつくりの部屋が全く変わってしまう…… おもしろいなぁ。ホントに貴重な体験ですね。 なんだか妹尾河童さんの旅行記が読みたくなりましたよ……。
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raindrop
at 2011-09-02 20:09
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この本を初めて見たときは衝撃でした。
「こだわる」美学の対極に「こだわらない」美学っていうのもあるんだなぁ、とか 人目を気にせず、バランスなんかには目もくれず、 ただひたすらに己の欲望?のみを追求するにもある種の潔さがあるのかも、とか 生きていく上での優先順位というのが、本当にひとそれぞれなんだと インテリアとは違うところでいろいろ目を開かれる思いがした一冊です。
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penelope33 at 2011-09-03 00:57
おお、raindropさんもこの本を御覧になっていましたか〜!
私も全くおんなじことを感じましたよ。 |
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古道具屋「ロータス・ブルー(青蓮亭)」店主のつれづれ。家族は映像ディレクターの相方ZOO(2021年9月13日、横行結腸がん+肝転移により58歳で逝去)とキジトラ猫のヤマコ(♀/2022年9月23日、16歳で他界)。ブログ主は、膠原病類縁疾患の『シェーグレン症候群』のため療養中です。 by 青蓮亭 カレンダー
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