青蓮亭日記

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2007年 11月 01日

ミニマリストのコップ

最初に手にしたのは、底にスフィンクスのマークのついた
オランダ・マーストリヒトの “Petrus Regout” のものだった(下の画像・左から2番目)。

ややくすんだ象牙色、微かに入った貫入。
それまでに、中国のお茶の文化の影響と思われる、
取っ手のないデミタス・カップを扱ったことはあったが、
このいかにも「コップ」といった感じのゴブレット、
いったい食卓でどんな風に使われていたんだろうと、ずっと気になっていた。

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そしてその疑問は、同じマーストリヒトの陶器メーカー、
獅子のマークの “Société Céramique
(文字バケして表示されているかもしれない)のことを調べていくうちに氷解した。

上記リンク先に詳しく書かれているが、
1834年創業の “巨星” レゴーを猛追せんとする1851年創業のソシエテが、
20世紀に入り “sanitary ware”(衛生用品)に力を注ぎ始め、
1958年、ついにレゴーを買収したとある
(ライオンがスフィンクスを食べてしまったというわけ)。

衛生用品って、日本のTOTOみたいなもんか……お風呂、トイレ、洗面所……。
そこで「あ、洗面所のコップ!」と気がついた。

2番目の画像左下の “mosa”(御売約)というのが、オランダの
ホテルやレストラン向けの業務用陶器メーカーとわかり、「やっぱり」と確信。
こんなこと、ヨーロッパに長く住む方には周知のことなのかもしれないが……。

1番目の画像は、左から“Lewis Woolf & Sons”(イギリス/19世紀末)、
“Petrus Regout”(1920〜30年代)、
“Societe Ceramique”(1920〜30年代)、“mosa”(20世紀半ば頃)。
そして一番右は、フィンランド “ARABIA”の “TEEMA”というシリーズのもの。

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フィンランドの国民的デザイナー、
カイ・フランク(Kaj Franck/1911-1989)の代表作であるTEEMAは、
「ディナー・セットを粉砕せよ」という彼の言葉に象徴される、
徹底した機能主義のもとに考案されたテーブルウェア。

このゴブレットもまさに「洗面所の歯磨きコップみたい」なのだが、
フィンランドの農耕社会で使われてきた
伝統的な器の “用の美” に倣った究極のモダン・デザインが、
結果的に業務用のコップに通じるシンプリシティに至ったのだと思う。

TEEMAという食器、実際に使ってみると、その単純な色と形の美しさ、
和洋中華と何を盛っても違和感のない万能性に、つくづく感心する。
モダンでありながら、決して冷たい感じがしない。

骨董の器について味だ染みだ景色だと語る一方で、
単純な形でよい色の器を少しだけ持ちたいというミニマリストの自分がいる。

けれどもこのふたつの嗜好は矛盾するものではない。
新古を問わず器に興味はあるけれど、いまだかつてコレクターだったことはないから。
それに器の良し悪しというものは骨董の器が教えてくれたのだ。

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3番目の画像はウチにある3色のTEEMAのゴブレット
(一番右は黒く見えるが濃紺)。

真っ白でなく暖かみのある白(クリーム色)がオールマイティなのは当然として、
濃紺のゴブレットで飲む豆乳はとてもおいしいし、
薄い黄色のゴブレットにオレンジ・ジュースを注ぐとすごくかわいい。
焼酎のお湯割りだっていける(ちょっと小さいか……)。

歯磨きから晩酌の相手までこなせるこのコップ、
個人的には、フランスの永遠の定番である
DURALEXの耐熱グラスに匹敵すると思っているのだが。

1981年の発表以来、微妙なモデル・チェンジを重ねてきたTEEMA。
2番目の画像のように、販売時期によってバック・スタンプも異なる。

そして2005年の大モデル・チェンジによって、
このゴブレットは廃番商品になってしまった。
やはりコップはガラスが一番ということか……。

カイ・フランクは大の日本贔屓だったということだが、
このモダン・デザインの巨匠が、日本の造形感覚のひとつの特徴である
ミニマリズムに共鳴するのは当然のことだろう。

私がTEEMAと等しく愛用している
古伊万里の染付や白磁の膾皿(なますざら)や蕎麦猪口と同様に使いやすく、
それらの古い器と一緒に使っても全く違和感がない。
どちらがエライのかといえば、どちらもエライのだと言いたい。

by penelope33 | 2007-11-01 18:16 | クラフト・デザイン | Comments(0)
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