2007年 12月 02日
アンティーク・古道具業界のひとつの潮流に “工業(インダストリアル)系” というものがある。 工場や作業場・アトリエ(広義では学校や病院・研究所など)で使われていたような、 装飾の少ない機能的な家具・照明・道具類・雑貨などが、 総じてこのように呼ばれている。 “工業”、“工場”、“機械”といったものが、 輝かしい “未来” を指し示していた時代のモノたちの廃れたたたずまいに、 どうしようもなく惹かれてしまう人々が少なからずいる(私もそのひとり)。 さて、下の画像は、銅製の本体に錫のメッキを施し、 鑿か何かで荒い模様をつけた煎茶盆である(直径:約27.5cm)。 一見現代作家の作品のようにも見えるが、おそらく戦前くらいまでは遡るのではないか。 茶人が職人に発注してつくらせたのか、いわゆる “作家もの” なのかわからないが、 時代を考えるとなんともアヴァンギャルドな意匠だ。 (売約済) 工場でつくられたのでもなく、工場で使われていたわけでもない “工芸品” なので、 本来はこのような品は “工業系” とは言わない。 しかしこの金属製の盆には、日本の伝統工芸の枠にとどまらない、 バウハウス運動(1919〜33年)や 「マシーン・エイジ」(二度の世界大戦の間の時代)といった、 時代の精神を感じるといったら大袈裟だろうか。 そんなことを思ったのも、この盆を見た私が即座に連想したのが、 '80年に発表されたORCHESTRAL MANOEUVRES IN THE DARKの 1stアルバムのジャケット(画像・左下)だったからである。 この工業用資材のような金属板のマチエールを模した秀逸な グラフィック・デザインは、'70年代末にイギリスのインディ・レーベル 「FACTORY」設立に参加し、JOY DIVISION、NEW ORDER等の 端正で斬新なレコード・ジャケットのデザインで脚光を浴び、 現在も活躍するイギリスを代表するグラフィック・デザイナー、 ピーター・サヴィル(Peter Saville/1955-)の作品。 2003年5月〜9月に ロンドンの「デザイン・ミュージアム」で開催された彼の回顧展が、 同年10月〜11月、ラフォーレミュージアム原宿に巡回した。 「ピーター・サヴィル展 The Peter Saville Show/ Retrospective 1978-2003」である。 有名なレコード・ジャケットの版下や色校正から、デザインの “元ネタ”(『UNKNOWN PLEASURE』の「白い波形=地震波」 が載っている百科事典とか)まで展示された大変興味深い 展覧会だったのだが、中でも印象的だったのは 『CLOSER』(JOY DIVISION/画像・右)のジャケット版下 (=印刷原稿)、表4(=裏面)のタイポグラフィ。 ほとんど一文字づつ字間を調節しながらきれいに貼ってあった。 Macなんてなかった時代、グラフィック・デザイナーが 自らのアイディアや感覚を版下というモノに定着させるためには、 職人的な「手技」が必要だったのである。 ピーター・サヴィルの あの厳格で美しいタイポグラフィの原点を見たような気がして、 なんだかひとりで感動してしまった。 というわけで、結局、 “工業系” から “工芸系” の話になってしまった。
by penelope33
| 2007-12-02 16:47
| クラフト・デザイン
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Comments(2)
銅版を曲げる際に、なましてから作るので
柔らかくなってる。球体にするには、急須などの場合は 結果的に、鎚でたたくから、しまる。 盆の場合は、平たいので、柔らかい。 絞める意味と、せっかくたたくなら渦巻きにという 職人の遊びを感じますが、憶測です。
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penelope33 at 2007-12-04 02:25
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古道具屋「ロータス・ブルー(青蓮亭)」店主のつれづれ。家族は映像ディレクターの相方ZOO(2021年9月13日、横行結腸がん+肝転移により58歳で逝去)とキジトラ猫のヤマコ(♀/2022年9月23日、16歳で他界)。ブログ主は、膠原病類縁疾患の『シェーグレン症候群』のため療養中です。 by 青蓮亭 カレンダー
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