青蓮亭日記

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2007年 12月 17日

アメリカ開拓期の “選鉱パン” と 『AFTER THE GOLD RUSH』

この小さな鉄製のたらいは、
19世紀半ば〜後半のアメリカの “ゴールド・ラッシュ” の時代に使われていた、
砂金を振り分けるための「選鉱パン」と呼ばれるもの。
錆び止めと、砂金を見分けやすくするため、黒い塗料が粗く塗られている。

“店” に並べておくと、おそらく木製と思われるのだろう、
手に取っても「なんだカナモノか」という感じですぐに戻す方が多かった。
このフォルムも、溜塗にさらに黒い漆を粗く塗ったような質感も美しいと思うのだが……。

こういう地味な器こそ、中に入れるものの色を生かすのだ。
ということで、ラ・フランスを入れて撮影してみた。

アメリカ開拓期の “選鉱パン” と 『AFTER THE GOLD RUSH』_f0151592_20354898.jpg




追記:同内容の日記をmixiにもUPしたところ、
実際に砂金堀りを楽しんでいらっしゃる方からコメントをいただいた。
“ゴールドパン(=選鉱パン)”や、“パンニング(=選鉱)”という言葉を使われていた。
選鉱パンは、今はプラスティック製が主流(黒・ブルー・赤・グリーン・ピンク)で、
ほとんどが輸入品とのこと。

辞書を引いてみると、‘pan’という単語自体に、「選鉱なべ」とか、
「(砂金などを)選鉱なべで採取する」、
「(泥・砂などを)選鉱なべで洗い流す」という意味があり、ちょっとびっくり。

(直径:約25.5cm・高さ:約4cm/売約済)

アメリカ開拓期の “選鉱パン” と 『AFTER THE GOLD RUSH』_f0151592_4495533.jpg


“ゴールド・ラッシュ(gold rush)”とは、
金が発見された土地に、文字通り “一攫千金” を狙う人々が殺到すること。

1848年、アメリカ西部のカリフォルニア川で砂金が発見されたことをきっかけに、
カリフォルニアは金鉱脈を擁する夢の新天地として、
アメリカ国内のみならずヨーロッパからも多くの人々を引き寄せた。
こうした人々(農民、商人、牧師、山師、乞食と、あらゆる階層の人々がいたという)は
1849年に急増したため、“フォーティ・ナイナー(forty-niner)”と呼ばれた。
その結果、1852年にはカリフォルニアの人口は20万人に達し、州に昇格。
ゴールド・ラッシュはアメリカ西部開拓の原動力となった。

アメリカ開拓期の “選鉱パン” と 『AFTER THE GOLD RUSH』_f0151592_20362227.jpgしかし、元々その土地に住んでいた人々の中には、
農場を荒らされ移住を余儀なくされた者もいた。
ゴールド・ラッシュとは、破壊、略奪、殺人といった
血と暴力を生み出した狂乱の時代でもあった。

1850年代のカリフォルニア以外にも、
19世紀中頃から19世紀末にかけて、オーストラリア、
ニュージーランド、カナダ、アラスカなどで
ゴールド・ラッシュが起こった。
左の画像は1899年のアラスカのゴールド・ラッシュにおける写真。
老人が手にしているのが “選鉱パン”。

“選鉱パン” で検索してみると、ヒットする記事が思いのほか多いことに驚く。
現代の日本で砂金堀りというのはひとつのレジャーとして定着しているようだ。

ニール・ヤングの初期のアルバムに『AFTER THE GOLD RUSH』('70/画像・下) というのがある。

アメリカ開拓期の “選鉱パン” と 『AFTER THE GOLD RUSH』_f0151592_1621184.jpg主にブリティッシュ系の音楽を聴いてきた私がニール・ヤング
を聴くようになったのは '90年代に入ってからのこと。
'89年にニック・ケイヴ、サイキックTV、ソニック・ユースと
いった“オルタナ系”(≒アングラ系)アーティストたちによる
『THE BRIDGE トリビュート・トゥ・ニール・ヤング』という
アルバムがリリースされ、'90年にセント・エティエンヌが
『ONLY THE LOVE CAN BREAK YOUR HEART』を
カヴァーし、彼が “元祖グランジ” などと評されるように
なった後だ。

名作とされる『HARVEST』('72) など、彼のアルバムは数枚
持っているけれど、個人的には、ニール・ヤングといったら
『AFTER THE GOLD RUSH』、この1枚につきる。

この人の声には微妙なゆらぎがあり、美声というよりむしろ “ヘンな声” である。
それなのに、ヴォーカルが、ギターが、ピアノが、どうしてこんなに胸に沁みるのか。

特に好きなのは1曲目の『TELL ME WHY』なのだが、
ここではアルバム・タイトル曲の
『AFTER THE GOLD RUSH』について触れておく。

鎧兜を身につけた騎士たち、歌う農民たち、
弓の名手といった中世の人々が登場する祝祭的な夢の情景が描かれ、
次いで「今の時代('70年代)の、
危機に瀕している “母なる自然” を見てごらん」と歌われる1番。

ベトナム戦争、あるいは核戦争を思わせる荒廃した状況の地下室で、
おそらく肉体的にも精神的にも傷つき、ハイになり、ひたすら “帰還” を願う2番。

まばゆい太陽の光の中、いくつもの銀色の宇宙船が空に浮かび、
“母なる自然の銀の種” が宇宙船に積み込まれ、
新たな土地へと飛び立つ未来が描かれる3番。
(映画『未知との遭遇』《'77》の宇宙船が「ノアの箱舟」になるようなイメージ?)

さほど英語も得意ではないし、制作当時の時代背景についての深い知識もないから、
はっきりしたことは言えないのだけど、
『ゴールド・ラッシュの後に』とは、
個人の内面における痛みと混沌から抜け出ること、
そして、世界の歴史における暴力と破壊の時代の終わりを希求する歌なのではないか。
もっとも、こういった歌詞が全くわからなくても、
魂がふるえるほどの力を持った、美しく、剥き出しの音楽であることに変わりはない。

珍しく髪を短くしたニール・ヤングが
ピアノを弾きながらこの曲を歌う'78年のライヴ映像がYouTubeにUPされている。
「この曲を聴くと、NAVY SEALS (米国海軍特殊部隊)だった俺さえ泣けるんだ」
というコメントが寄せられている。
レディオヘッドのトム・ヨークのカヴァー・ヴァージョンもUPされていた。

by penelope33 | 2007-12-17 21:00 | 古いもの・古びたもの | Comments(2)
Commented at 2007-12-19 02:37
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2007-12-19 11:18
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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