2008年 03月 29日
自分で古いものを売るようになった当初は、 「コレクターではないのだから、仕入れたものは溜め込まずに売らなくては」 という一種の強迫観念があった。 今から考えると、「無理に売らなくてもよかったなぁ。 あんなもの、もう二度と出会えないかもしれないなぁ……」という品が結構ある。 きちんと画像に残していたり、納得できる値段で売ったりすればよいのである。 自分では気に入っているのに露店でなかなか売れず、 ついオークションに出品して安く落ちていったもののことを思い出すとカナシイ。 下の画像はそういった品のひとつ。 保存の際に設定を失敗し、少しジャミジャミした画質になってしまった。 (年代不詳/高さ:約21cm・底径:約6.3cm/御売約) 骨董関係のムックで「昭和初期の瀬戸徳利」とされていたので、 「珍しいものかもしれないけど、また見かけることもあるだろう」と思っていた。 しかし、口が細い一升瓶のようなタイプはたまに見るのだが、 意外とこの “ボトル” という感じのものにはお目にかかれない。 お詳しい方によると、この白磁の瓶は、 京都大学の前身である化学研究機関「舎密局(せいみきょく)」に関係があるということだ。 舎密局とは、わが国初の本格的な近代化学の研究機関。 舎密とは、オランダ語で化学を指す「chemie(シェーミ)」が語源である。 1866(慶応2)年から5年間、明治維新という激動期に日本に滞在した オランダ人化学者ハラタマ博士(K.W. GRATAMA/1831-1888)は、 1869(慶応5)年に理化実験棟をもつ学校「舎密局」を大阪城前に開設した。 そして1897(明治3)年、 京都府が理化学・化学工業技術の研究・普及を目的として舎密局を設立。 その流れをくむのが現在の京都大学である(→京都大学の沿革)。 1900(明治6)年には、本局が旧京極宮別邸跡(中京区鴨川西二条上ル)に建設される。 京都舎密局では、石鹸・氷砂糖・鉄砲水(ラムネ)・麦酒(ビール)・陶磁器・七宝焼・ 硝子(ガラス)・漂白粉・顔料などの製造、石版術や写真術の実験・講習を行っていたという。 滋賀県「竜ケ池・揚水機場」、「琵琶湖疎水・導水事業」、「南禅寺水路閣」、 「蹴上発電所」等の技術開発にも関わっていたそうだ。 舎密局は1911(明治17)年まで存続したということだが、 その後も後身の団体が こういったものの製造を昭和の時代まで続けていたのだろうか……? (ちなみに私企業である京セラの設立は1959年と戦後のこと) それにしても「舎密局」という漢字三文字には、 「京都」「理化学研究」→「秘密の研究機関」→「毒薬」「密教」「陰陽師」(?)などと、 ダークサイドを想像させるアヤシサがある。 理化学研究と陶磁器製造ということで、 民間企業に招かれて来日し、その後政府に雇われて「お雇い外国人」となった ゴットフリード・ワグネル(1831-1892)のことを思い出した。 ワグネルと舎密局の関連についてはこちらのページに詳しい。 まあこの白磁の瓶などは一応画像に残していたからまだいい。 手放して一番後悔しているもの、それは白丹波の蝋燭徳利。 私としては値段の張るものだったので、売れたときはうれしかったのだが、 画像に残さなかったのが本当に残念。
by penelope33
| 2008-03-29 23:29
| 古いもの・古びたもの
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Comments(6)
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びっき☆
at 2008-03-29 23:35
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「コレクターではないのだから、仕入れたものは溜め込まずに売らなくては」
これがネックで…僕は業者になれません。 ずっとコレクターでいたいのですが、場所が…少し処分しなくては^^;
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penelope33 at 2008-03-29 23:45
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Awavi。
at 2008-03-30 21:33
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面白い徳利ですね。(ホントに徳利なのか?)
以前に『好きなモノを売るのは惜しくないですか?』と 質問した事ありましたけど、 やはり後悔している品もあるんですね〜・・。 女性って、手放したモノには、 あまり未練がないような所ありますけど、 ペネロープさんのこだわりは結構オトコっぽいです・・笑
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penelope33 at 2008-04-01 10:38
ラムネやビールを入れていたとは……。
女性って手放したモノに未練がないんですかー? 未練っていうより「儲け損ねた」という「欲」なのかな?^^; (「好きなモノ・かわいがっているモノ」はより高く売れてほしいという心理) 「よい品だったのに安く売り急いだもの」、これは後悔が残りますね。 だんだんとお客様が増えてきまして、 「こんなのもあったんですか。ほしかったなぁー」と言われますと、 ほとんど原価とか原価割れしてまで手放したことを「バカだったなぁ」と……。 それと、時間がたてばたつほど「あんなものにはなかなか出会えない」と思い知るもの。 これは純粋に手元に置いておけばよかったという後悔ですね。
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Awavi。
at 2008-04-01 22:08
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ん〜!!
そっけないこの瓶にも、そんな背景があったのですね。
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penelope33 at 2008-04-01 22:21
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古道具屋「ロータス・ブルー(青蓮亭)」店主のつれづれ。家族は映像ディレクターの相方ZOO(2021年9月13日、横行結腸がん+肝転移により58歳で逝去)とキジトラ猫のヤマコ(♀/2022年9月23日、16歳で他界)。ブログ主は、膠原病類縁疾患の『シェーグレン症候群』のため療養中です。 by 青蓮亭 カレンダー
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